Yahoo!からGoogle広告に切り替えたいという要望

都内の医療機関のクリニック(Aクリニックと呼ぶ)から、「Yahoo広告からGoogle広告に切り替えたい」という連絡がありました。
広告を切り替えたい理由は次の2つでした。


■Googleの利用者がYahooより多いため
■多くの医療機関は、Yahoo広告よりGoogle広告を利用している
■Yahoo広告では、医療機関の広告規制が厳しくなり、審査に通りにくくなった
■多くのネット業者がのYahooから撤退し、Googleを勧めている


ヤフーの広告規制が厳しくなっている

2020年以降の夏以降、Yahoo広告における医療機関の広告規制がかなり厳しくなり、多くの医療機関の広告が掲載停止となりました。

医療機関のネット広告を扱っている業者は、Yahoo広告の審査が通らないため、Yahooを止めてGoogleに切り替えていたところです。そこでネット広告業者は、Aクリニックに「Yahoo広告を止めて、Google広告に切り替える」ことを勧めて、営業をかけてきたのです。

ヤフーの既存広告は掲載され、予約は満杯状態

Aクリニックでは、既存のYahoo広告は掲載停止になりませんでした。徐々にライバル広告が掲載停止になり、医療機関の広告が少なくなった影響で、徐々にAクリニックの新規予約率が向上し、冬に入る前には、ほぼ毎日、予約満杯になったのです。

ただ、新しい広告を出稿したときは、広告審査になかなか通りませんでした。そこでAクリニックは、Yahoo広告を止めて、Google広告に切り替えようと考えたのです。

しかしAクリニックの既存の広告はずっと掲載されたままで、審査不合格となるのは新しく出稿した広告のみでした。すでにAクリニックのホームページは、Yahooの厳しい審査の合格基準に近づいている可能性が高かったのです。

YahooからGoogleに切り替えるべきか?

さてここで質問ですが、業者が言われる通り、Google広告に切り替えるほうがよいのでしょうか。

ここでGoogle広告とYahoo広告の利用者数を見てみましょう。
次のデータは、2018年度におけるYahooとGoogleの利用者数のデータです(ニールセン デジタル株式会社調べ)

YahooとGoogleの利用者数を比較

Yahoo 6743万人
Google 6732万人

利用者数は、どちらも拮抗していることがおわかりかと思います。スマホ利用者も含めたGoogle検索市場においては、Yahoo検索よりGoogle検索の利用者が多いのは間違いないでしょうが、トータルの利用者では大差がありません。

さらに医療機関では元々、Yahoo広告よりGoogle広告の利用者が多い状態でした。さらに今回のYahoo広告の規制強化により、Google広告に乗り換えてくる医療機関が急増したのです。
都内でどのくらいの医療機関がGoogle広告を利用しているか、確実な数値までは分からなかったですが、Aクリニックの所在する区内では、推定30院がGoogle広告を利用していたのです。

Googleの掲載率はわずか10%、Yahoo!はほぼ100%

これに比べてYahoo広告では、厳しい広告規制もあったためか、医療機関は3院のみでした。
そして同じ入札価格でGoogleとYahooの広告を出稿したところ、有料広告の上位3位に表示できる確率はGoogleは10%、Yahooではほぼ100%でした。

有料広告は入札制です。当然、ライバルが多いほど、入札単価は急騰します。
つまりGoogleの入札単価は急騰し、Yahooはライバルが少なくなっていたため、YahooはGoogleの1/3~1/4の入札価格でも上位3位に入っていました。

Yahoo広告はブルーオーシャン、Google広告はレッドオーシャン

Google広告はレッドオーシャン市場のため、ライバルが急増し、それに比例して入札単価も上昇します。これに対し、Yahoo広告はライバルが減って、入札単価も減少傾向です。つまりYahoo広告は、Google広告と比べて圧倒的にブルーオーシャン市場と言えます。

現実的には、Yahoo広告のライバルが少なくなって以降、申し込み率が高くなり、ほぼ予約が満席状態になっていました。もしここでYahoo広告を止めてGoogle広告に変えると、予約率が半減する恐れがあったのです。

一見、もっともらしい業者の説明ですが、確かにGoogle広告なら審査に合格したでしょう。しかしランチェスターの法則を無視してしまうと、大局観における判断を間違えてしまうのです。

占有率の確保こそ、会社が生き残る道

過去に実際にあった事例ですが、今回と似たような状況で広告を中止した途端に売上が半減した会社を、目の当たりにしています。そのときは、お客様の会社の販売部長が社長に広告の中止を強く反対していましたが、経理部長に予算削減を押し込まれ、広告を停止した翌月から売上が急落しました。

また他のお客様では、3年後に倒産した会社さえありました。

一倉定氏は、会社が生き残る条件として、占有率の確保を述べています。私なりの解釈ですが、今回の事例は、有料広告内における占有率と考えてよいと思います。
ネット広告という限定した範囲になりますが、もし集客の大半をネットに委ねている医療機関においては、ここで述べた内容は、十分、起こりうることなのです。

戦術は戦略に奉仕する

戦術的な観点なら、Yahoo広告は審査を通りにくいため、Google広告を選ぶ方が正しいかもしれません。しかし経営戦略(占有率の確保)という観点で見た場合は、 Google広告を選択するより、Yahoo広告を続けることが望ましいことはもうお気づきかと思います。

最終的にAクリニックは、新規広告も無事に審査が通りました。今度、AクリニックはYahoo広告において、優先的な占有率をしばらく確保できるでしょう。

戦術は戦略に奉仕する」ものです。戦術優先で経営戦略をないがしろにした場合、あっという間に倒産の危機を招く恐れがあります。

ランチェスター法則を正しく理解し、事前に倒産の危機を避けることも経営の知恵と言えます。