会社の存続には、占有率の確保が最重要
ランチェスターの法則について解説します。
ランチェスターの法則を、耳にされた人は多いと思います。ランチェスターの法則は、カリスマ的な経営コンサルタントとして知られている一倉定氏も、よく取り上げていました。
一倉定氏は、「会社が生き残るためには、占有率の確保が最重要」とし、たとえ年々、売上が伸びていても、占有率が下がり、限界占有率に達した場合には、企業の存続が危ういことを述べています。
そして、小さな市場で大きな占有率を確保することこそ、優良会社への近道であることを明言しています。
一倉定氏は、占有率を確保する手段として、ランチェスターの法則を採用し、弱者(占有率が第1位以外)が強者(占有率が第一位、主に大企業)に勝つ唯一の方法は、ランチェスターの法則にあると述べています。
ランチェスターの二つの法則
ランチェスターの法則には、二つの有名な法則があります。
■第1の法則「一騎打ちの法則」
一騎打ちの法則とは、両陣営の武器性能や武力が同じであれば、「総戦力は兵力数に比例する」ことをいいます。
■第2の法則「集中効果の法則」
集中効果の法則とは、両陣営の武器性能や武力が同じであれば、「攻撃力は兵士数の2乗に比例する」ことをいいます。
この二つの法則を聞くと、「当たり前のことじゃないか」と軽く聞き流す人がいますが、一倉定氏は、「弱者が強者に勝つ唯一の方法がランチェスター法則」であると言い切っているのです。
第1の法則「一騎打ちの法則」
10倍以上の戦力差に勝利した桶狭間の戦い
第一の法則の事例で、歴史的に有名なのが桶狭間の戦いです。この戦いは織田信長と今川義元の戦いです。織田軍2千人に対して今川軍2万人という、10倍以上の圧倒的な兵力差がありました。この戦いで織田信長は、見事に今川軍を破り、勝利したのです。
桶狭間の道はとても狭いです。今川軍が桶狭間を通過するとき、兵は縦に長く伸びていました。そのため、今川義元の本陣は手薄の状態となり、本陣に目がけて、織田信長は全軍攻撃を仕掛けたのです。
全体の兵力で見れば織田軍2千、今川軍2万という10倍の差があります。しかし、兵が伸び切った状態での本陣はわずか数百人です。その本陣に一点集中で2千の兵を突撃させたのでした。
ランチェスターの法則は勝つべくして勝つ方法
一般的に、「織田信長は奇襲で勝利した」と言われています。しかしランチェスターの法則から見ると、これは立派な兵法であり、局地戦においては織田軍が圧倒的に有利の地に立っていました。
さらに天候の悪化が織田軍に味方しました。天候が悪いために、今川軍は織田軍の接近に気づなかったことも勝因の一つです。
「一騎打ちの法則」を会社経営に活かす
この第一の法則から、会社経営者にとって、多くのことが学べます。
まず、戦う前に優位の地に立つことです。まず桶狭間の道は狭く、兵が伸びるという「地の利」を活かしました。そして天候です。奇襲をかけても天候が悪いため、今川軍は織田軍の接近に気づくのが遅れました。まさに「地の利」と「天候」を味方につけました。
そしていざ戦いになったときは、本陣への一点集中攻撃を行いました。数百人の今川軍に対して、2千人の織田軍が襲ってきたのです。そして当然、局地において、圧倒的に数に勝る織田軍が勝利したのです。
この桶狭間の戦いこそが、まさにランチェスターの法則の第1法則に当てはまります。奇襲で勝ったというよりも、勝つべくして勝ったのです。
これを、「企業における市場競争」で例えるならば、我が社の置かれている状況を正しく把握して、有利なポジションを確保し、さらにライバルが十分に力を発揮できない市場に経営資源を集中させて勝利としたと言えます。
■我が社が有利に立つ市場・商品・サービスは何になるか。
■そして市場に対し、我が社の経営資源を集中して販売を仕掛け、小さな市場で大きな占有率を確保する。
ランチェスターの第1法則は、今の企業経営にも十分に生かすことができるのです。
第2の法則「集中効果の法則」
A軍6人、B軍3人のケース
ランチェスターの第二法則の「集中効果の法則」とはいかなるものでしょうか。
この法則を理解するために、わかりやすいたとえがあります。
A軍に6人、B軍に3人いるとします。
そして両軍とも、一人につき1分間に6発の弾丸を発射できるとします。
1分間にA軍、B軍が撃てる総弾丸数は、下記のとおりです。
各軍の弾丸を発射できる攻撃総数
A軍:6人×6発=36発
B軍:3人×6発=18発
次に、相手の弾丸を受ける一人当たりの命中数を算出してみます。
A軍6人はB軍3人から攻撃を受け、B軍が発射できる弾丸総数は18発です。
これに対しB軍3人は、A軍6人から攻撃を受け、A軍が発射できる弾丸総数は36発です。
これらを踏まえ、各軍一人当たりの弾丸を受ける数をまとめると、次になります。
一人当たり、敵の弾丸を受ける平均数
A軍:6人÷18発=3発/人
B軍:3人÷36発=12発/人
これを見ると、A軍はB軍の2倍の兵数がいます。しかし弾丸数(攻撃力)で見ると、B軍一人当たりの敵の弾丸を受ける数は、A軍の4倍となります。
A軍9人、B軍3人のケース
参考までに、A軍9人・B軍3人のケースを見てみましょう。
A軍:9人÷18発=2発/人
B軍:3人÷54発=18発/人
A軍はB軍の3倍の兵数に対し、一人当たりの敵の弾丸を受ける数は、A軍の9倍となります。
集中効果の原則は、「攻撃力は兵士数の2乗に比例する」
さてここでは2つの事例を紹介しました。2つの事例では、A軍、B軍の兵士数の差はそれぞれ2倍、3倍ですが、攻撃数に換算した場合は、4倍、9倍となっています。つまり、「攻撃力は兵士数の2乗、3乗に比例する」ことになります。この法則が「ランチェスターの第2法則、集中効果の法則」となります。
これを経営に当てはめると、ライバルより2倍の営業力となれば攻撃力は4倍、3倍の営業力になれば9倍の攻撃力になることを意味するのです。
ここでライバル会社との顧客獲得合戦で例えてみましょう。あなたの会社が商圏エリアにおいて第4位で、他に上位3社がいるとします。しかし上位3社がいずれも、月に1度しか得意先に訪問できていないとします。
この場合、営業部の訪問を月3回にすれば、集中効果の法則で、攻撃力は「1:9」になるのです。
このようにお客様への定期訪問の効果は、回数を増やすほど攻撃力は乗数で増えていくことになります。
もちろん単なる売込ではうまくいきません。売込のために訪問回数を増やせば、逆に嫌われてしまいます。
「お客様訪問は、売込ではなく定期訪問が役割である」という、当たり前の原則は守るようにしましょう。
ランチェスターの法則「第1」「第2」を経営戦略に活かそう
ランチェスターの法則を当てはめて考えた場合、もしあなたの会社の商圏エリアにおいて、ライバルが強く、すでに限界占有率を下回っているのであれば、強い市場で戦うのを避け、手薄な市場を狙うことが正しい戦略となります。
一例をあげれば、大都市において、複数の大手会社がすでに市場の大部分を占有していたとき、中小・零細は、その市場に参入しても勝つ見込みはありません。
このような場合には大都市圏を狙わず、大手が行き届いていない手薄な市場、つまり大都市でなく地方で戦う戦略をとることで、ランチェスターの法則が生きてくるのです。
また小売店であれば、「大手小売が多品種を扱っているから、うちでも多品種を扱う」といった「何もかも扱う」というやり方では、うまくいく可能性はありません。
中小小売店が「何もかも扱う」といった戦略をとった結果、どうしても「多品種小アイテム」という商品構成となってしまい、お客様のニーズを満たせなくなるからです。
この場合の生きる道は、専門店をみればわかります。専門店は、品揃えは単品種ですが、アイテム数は豊富にあります。これならば、「見較べて買いたい」というお客様の要求を満たせるようになるのです。
このお客様の要求を満たしているからこそ、身近に大手が存在しても、専門店が存続できるようになります。
相手が大手小売店であっても、「特定品種に絞り、その品種におけるアイテム数が大手を上回っていれば、その品種(局地)において勝っている」というランチェスターの法則が成り立つのです。
ランチェスターは、小が大に勝つ唯一の方法
このようにランチェスターの法則は、「弱者が強者に勝ち、小が大に勝つ方法」であると同時に、「大が小に勝つ方法」を教えています。
「うちの会社は大手だ」という意識に浸かっていると、小さなアリに食い荒らされていることに気づかないことさえあります。ランチェスターの法則は弱者だけでなく、強者であってもしっかり学んでおくべき重要事項であることを知らなくてはなりません。
中小企業、あるいは小さな業者は、常に小さなマーケットを狙い、小さなマーケットで大きな占有率を確保することに生き筋を見つけるべきです。
弱者は大市場に弱く、小市場に強いものです。弱者は常に戦場を絞り、局地戦における戦いで全力投球してこそ、存続と繁栄への道が拓けてくるのです。